猫の慢性腸症について
猫が慢性的な消化器症状を示している場合、慢性腸症という病気の可能性があります。この病気は、長期間にわたって腸に炎症が起き、消化や吸収の働きが乱れる病気です。人間でいうところの、お腹の調子が慢性的に悪い状態に近いかもしれません。 以前は犬の慢性腸症について説明しましたが、今回のコラムでは猫の慢性腸症について詳しく説明します。
猫の慢性腸症とは?
猫の慢性腸症は、以下の2つの主なタイプに分けられます。
1. 食事反応性腸症
特定の食事を与えることで症状が改善するタイプです。比較的若い猫に多く見られますが、年齢に関係なく発症する発症する可能性があります。
2. 特発性炎症性腸疾患(IBD)
食事療法だけでは改善せず、免疫の異常が関わっていると考えられているタイプです。この場合は、炎症を抑えるお薬が必要になります。中年齢以降の猫ちゃん、特にシャム猫などのアジア系の品種に多い傾向があります。
また、慢性腸症とよく似た症状を示す病気として、消化器型リンパ腫という病気もあります。これは腫瘍性の病気で、IBDと症状がとても似ているため、正確な診断が大切になります。
どんな原因で起こるの?
猫の慢性腸症の明確な原因は解明されていませんが、以下の要因が影響していると考えられています。
- 腸内細菌のバランスの乱れ
- 食物抗原(特定の食材に対する反応)
- 遺伝的な素因
- 環境的な要因
これらの要因が、腸の免疫システムに不適切な刺激を与え、炎症を引き起こしていると考えられています。
症状について
慢性腸症の猫に見られる症状は次のようなものです。
- 嘔吐:特に胃や小腸に炎症がある場合に嘔吐が目立つことがあります。
- 下痢:水っぽい便や血液・粘液を含む便が見られることがあります。
- 粘血便:腸の下部に炎症がある場合に見られます。
- 体重減少:栄養吸収が悪くなるため痩せていくことがあります。
- 食欲不振
- 毛づやが悪くなる
- 脱水症状
これらの症状は軽くなったり悪化したりを繰り返すことがあり、周期的に現れることが特徴です。
診断の流れ
猫の慢性腸症を診断するためには、他の病気を慎重に除外していく必要があります。そのため、以下のような検査を段階的に行います。
- 身体検査
腹部を触診し、腸が厚くなっていないかや痛みがないかを確認します。 - 血液検査・尿検査
全身状態を把握し、甲状腺機能亢進症や腎臓・肝臓の病気を除外します。特に、慢性の消化器症状がある猫では「コバラミン欠乏症」もよく見られるため、血清中の葉酸とコバラミン濃度を測定します。 - 便検査
寄生虫、細菌、ウイルス、原虫などの感染症が原因でないかを確認します。 - 画像検査
- レントゲン検査:腫瘍や腸の詰まりがないかを確認します。
- 超音波検査:腸の壁の厚さやリンパ節の状態などを確認します。
- 内視鏡検査と生検
内視鏡を使って腸の中を直接観察し、必要に応じて組織の一部を採取して詳しく調べます。これにより、IBDかリンパ腫かを区別することができます。
治療方法
慢性腸症の治療は段階的に進めます。
- 食事療法
- アレルギーを引き起こしにくい「加水分解食」や「新奇タンパク食」を与えます。
- 食事療法を1週間以上継続して症状が改善する場合、食事反応性腸症と診断されます。
- 抗菌薬の使用
軽度の場合には抗菌薬(メトロニダゾール)を使用します。2週間ほどで症状が改善することがあります。 - ステロイド療法
食事や抗菌薬で改善しない場合、ステロイド(プレドニゾロン)を使います。これにより腸の炎症を抑えます。投薬を徐々に減らしながら、症状をコントロールします。 - その他の免疫抑制薬
ステロイドが効かない場合、クロラムブシルやシクロスポリンなどの薬を使用することがあります。 - 補助療法
- 腸内細菌のバランスを整えるためのプロバイオティクス
- ビタミンB12(コバラミン)の補充
治療後のモニタリング
治療後も、再発を防ぐために定期的なチェックが必要です。お薬を減らす際には、症状が再発しないか注意深く観察します。
予後
多くの猫は、食事療法や薬で良好な状態を保てます。しかし、一部の猫では治療が難しい場合もあります。その場合、以下の要因が影響していることがあります。
- 厳密な食事管理ができていない
- 重度の炎症がある
- 併発疾患がある(例:肝疾患、膵炎、甲状腺機能亢進症)
- IBDではなく、消化器型リンパ腫である
まとめ
猫の慢性腸症は、適切な診断と治療により症状をコントロールできることが可能です。ご心配なことやご不明な点がございましたら、遠慮なく当院にご相談ください。岡部獣医科病院では、猫ちゃんにストレスを与えないように、診察までの待ち時間などにも配慮しております。スタッフにも猫を飼っている者が多くおりますので、ご安心ください。