プレドニン(ステロイド)の副作用と安全な使い方


ステロイド(プレドニン®など)は、炎症やかゆみ、免疫の異常を抑えるために、犬や猫の医療で非常に広く使われている薬です。「副作用が怖い」と感じる飼い主さんも多いのですが、正しい知識と使い方を理解すれば、安全でとても有効な薬です。

今回は、動物医療の現場で一般的に知られている内容をもとに、ステロイドの効果と注意点をわかりやすくまとめました。

ステロイドとは?

ステロイド(副腎皮質ホルモン)は、体の炎症やアレルギー反応を抑えたり、免疫の働きを調整したりするホルモンです。プレドニン(プレドニゾロン)などの合成ステロイドは、その効果を高めた薬で、次のような場面で使われます。

  • アレルギー性皮膚炎やかゆみ
  • 関節炎などの炎症性疾患
  • 自己免疫性疾患(免疫が自分の体を攻撃する病気)
  • 腫瘍治療の補助
  • ショック時などの救急治療

ステロイドは多くの症状を和らげ、生活の質(QOL)を大きく改善してくれます。

ステロイドの主な副作用

ステロイドは効果が強い分、体のさまざまな機能に影響を与えることがあります。副作用の多くは用量・期間・体質によって変化します。

短期間の使用で見られる副作用(多くは一時的)

  • 多飲多尿(たくさん水を飲み、尿の量が増える)
  • 多食(食欲が強くなる)
  • パンティング(呼吸が荒くなる)
  • 一時的な体重増加

これらは薬の作用による生理的反応で、ほとんどは一過性です。投与をやめると自然に改善しますが、尿量が極端に増える場合や食欲が異常に強くなる場合は、獣医師に相談しましょう。

長期的な使用で注意すべき副作用

肝酵素の上昇・ステロイド肝症

犬ではALP(肝酵素)が著しく上昇することがありますが、多くはステロイドによる一時的な変化で、薬を減量・中止すれば徐々に正常化します。

感染しやすくなる(免疫抑制)

免疫が抑えられるため、膿皮症・マラセチア症・毛包虫症・疥癬などが悪化することがあります。皮膚病に対してステロイドを使用している場合は、もとの病気の悪化なのか副作用によるものなのかを慎重に見極める必要があります。

筋肉の虚弱・腹部の膨らみ

長期使用で筋肉が落ちたり、腹筋が弱くなってお腹が膨らむように見えることがあります。また肝臓の腫れ(ステロイド肝症)が加わることで腹部膨満が目立つこともあります。

消化管障害

高用量投与やデキサメタゾンなど強力な薬を使う場合は、胃潰瘍や胃炎などの消化管障害に注意が必要です。必要に応じて胃粘膜保護薬を併用します。

皮膚の変化

長期間投与では、皮膚の薄化・脱毛・石灰沈着などが見られることがあります。定期的な皮膚検査が重要となります。

ストレス性白血球像

血液検査で「好中球増加・リンパ球減少・好酸球減少」が見られることがあります。これはステロイドの作用による一時的変化で、多くは問題になりません。

医原性クッシング症候群

ステロイドを長期間・連日使用すると、ホルモンのバランスが崩れ、クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)のような症状が出ることがあります。(お腹の膨らみ、毛の薄れ、多飲多尿など)
一方で、短期間の高用量投与では起こりにくいことが知られています。
また、塗り薬や点眼薬でも全身に吸収されると副作用が出ることがあるため、複数のステロイド剤を併用する際は注意が必要です。

ステロイドは「急にやめない」ことが大切

ステロイドを長期間使用していると、体が薬に頼り、自分でホルモンを作る副腎の働きが弱くなることがあります。この状態で薬を急に中止すると、体が必要なホルモンを作れず、「副腎不全(アジソン病)」という危険な状態に陥ることがあります。

副腎不全では次のような症状が突然あらわれることがあります。

  • 強いだるさ・食欲低下
  • 嘔吐・下痢
  • ぐったりして動けない
  • 重症の場合、ショック状態になることも

したがって、中止や減量は必ず獣医師の指導のもとで、ゆっくりと進める必要があります。これを「離脱(減量)スケジュール」と呼び、体が自然なホルモン分泌を再開できるようにサポートします。

ステロイドを安全に使うためのポイント

  1. 獣医師の指示通りの量と回数を守る
  2. 自己判断で増減・中止しない
  3. 定期的に血液検査を受ける(肝酵素・血糖・副腎機能など)
  4. 多飲多尿・食欲変化・皮膚や被毛の異常を観察する
  5. 長期間使用では隔日投与など、体のリズムを考慮した投与方法を検討する

まとめ

ステロイドは、小動物医療で最もよく使われる薬のひとつです。非常に効果的で、痛みやかゆみを軽減し、生活の質を大きく改善してくれます。ただし、「強い薬だから怖い」ではなく、「正しく使えば安全な薬」と考えることが大切です。
使用中は体調変化をよく観察し、気になることがあれば早めに当院へ相談してください。ペットにとって最も安心で快適な治療となるよう、飼い主さんと獣医師が一緒に見守ることが大切です。