犬のかゆみ止めのお薬について徹底解説
「最近、うちの子が体をかきむしってばかり…」「夜も掻いて眠れないみたい…」ペットのそんな様子を見て心配になったことはありませんか?
犬のかゆみ(皮膚の炎症・アレルギー)は、季節の変化や食事、ノミ・ダニ、環境要因など、さまざまな原因で起こります。軽い場合は自然に治ることもありますが、かゆみが続くと皮膚を傷つけて感染を引き起こすこともあります。
今回のコラムでは、動物病院でよく使われる痒み止めの種類と、それぞれのメリット・デメリット・価格帯について詳しく解説します。愛犬のために、最適な治療法を一緒に考えていきましょう。
かゆみ止め薬の治療の考え方
犬のかゆみ治療で使われるお薬の多くは、犬アトピー性皮膚炎(Canine Atopic Dermatitis:CAD)を主な対象として開発・検証されています。そのため、アトピーによるかゆみには高い効果を示しますが、細菌感染・寄生虫・食物アレルギーなど他の原因によるかゆみでは、十分な効果が得られないことがあります。
当院では、まず皮膚炎・かゆみの原因を見極めたうえで、体質や症状に合った治療薬を選択しています。
主な全身治療薬の4つのタイプ
現在、犬の “かゆみ止め” の観点から見ると、主に下記の4種類が中心となっています。どれも実績がありますが、効果が出る速さ・持続時間・副作用・費用に違いがあります。
症状の時期(急性期/慢性期)や、ワンちゃんの性格・体質、また飼い主様のご事情に合わせて組み合わせています。
また、治療費の目安はステロイドは1日10~80円前後と比較的安価で、アポキル®は200~400円程度、シクロスポリンは250~600円前後、サイトポイント®(注射)は月1回9,000~18,000円程度が目安です。
※当院では標準的な価格帯の中でも、できる限りご負担を抑えた設定を心がけています。
①ステロイド(プレドニゾロンなど)
最も即効性が高い薬剤です。強い炎症を伴うかゆみの初期に用いられることが多く、短期使用では比較的安全で費用も抑えられます。ただし、長期継続の際には副作用リスクを考慮しながら、「このくらいの頻度・量なら維持可能」と見極めた上で使用継続を検討しています。
局所的な症状にはスプレータイプの外用薬も併用します。
②オクラシチニブ(商品名:アポキル®)
かゆみを引き起こす「IL-31」という物質の働きをブロックする薬です。飲み始めて数時間以内にかゆみ軽減を感じる症例も多いです。
長期使用でも比較的安全に用いられていますが、毎日の内服継続が基本となります。
また、量や頻度を上げすぎると副作用のリスクが増えるため、当院では“必要最小限の量で安定させる”ことを重視しています。
新しい選択肢:イルノシチニブ
2024年に登場した新しいJAK阻害薬です。オクラシチニブに似た作用を持ち、1日1回の投与で効果が持続しやすい特徴があります。ただし、長期データはまだこれからのため、当院では導入時に効果と安全性を慎重に確認しながら使用を検討しています。
③ロキベトマブ(商品名:サイトポイント®)
月に1回の注射で管理できるタイプのかゆみ止めです。錠剤が苦手な子、毎日投薬が難しい場合に選択肢になります。
注射だけで管理できる点が大きな利点ですが、通院が必要で、費用がやや高めになることもあります。
アポキル®で十分なコントロールが得られない場合などに適しています。
④シクロスポリン(商品名:アトピカ®など)
免疫のバランスを整え、炎症を根本的に抑えるタイプのお薬です。
効果が現れるまでに2~4週間ほどかかるため、即効性はありませんが、慢性的な皮膚炎やかゆみの維持に有効です。副作用として、投与初期に一時的な吐き気や下痢などの消化器症状がみられることがあります。
ただし、これは多くのケースで数日~数週間で自然に落ち着く一過性のものであり、長く続くことはまれです。
当院では、投与開始時に食後投与や胃腸薬の併用などを行い、できるだけ負担なく治療を始められるよう配慮しています。
補助的な治療
かゆみ止め薬だけでなく、体全体のケアや原因へのアプローチも非常に重要です。
- 減感作療法:アレルギー原因(ハウスダスト・ダニなど)を少しずつ体に慣らしていく治療です。
効果が出れば薬を減らせる可能性がありますが、実際には個体差が大きく、通院・費用の負担もあり、現状では主流の治療法とは言えない補助的な選択肢です。 - プロバイオティクス:腸内環境を整え、免疫バランスを改善する新しい補助療法です。
- スキンケア・シャンプー:皮膚の保湿や皮脂ケアで再発予防に役立ちます。
- サプリメント:オメガ3脂肪酸・ビタミンEなどで皮膚バリアをサポートします。
その他の治療について
かゆみ止めとして抗ヒスタミン薬(アタラックス®・フェキソフェナジンなど)やインターフェロン製剤(インタードッグ®)を使うこともありますが、これらは効果に個体差が大きく、現在では補助的な位置づけにとどまっています。
季節性に悪化する子には予防的に使われることもありますが、かゆみの根本原因をコントロールする主力治療とは少し異なります。
まとめ
かゆみ止め薬は、「一時的にかゆみを抑えるだけ」ではなく、炎症や免疫の異常を整え、皮膚を健康な状態に戻すための治療薬です。症状の原因・季節・体質によって最適な薬や組み合わせは異なります。
岡部獣医科病院では、薬の選択・費用・副作用・ケア方法を飼い主様と丁寧に共有しながら、その子にとって最も負担が少なく効果的な治療を一緒に考えています。「薬を減らしたい」「もっと負担を軽くしたい」そんなお気持ちがあれば、ぜひご相談ください。



