猫のリンパ腫と向き合うために


猫のリンパ腫とは?

リンパ腫は、猫に比較的多く見られる腫瘍のひとつです。血液の細胞であるリンパ球が腫瘍化し、全身のさまざまな場所に発生します
腸や胸の中、鼻の中など、発生部位によって症状や治療の反応が異なります。

ここでは、猫でよくみられる 消化器型・縦隔型・鼻腔内型 のリンパ腫を中心にご説明します。

主なタイプと特徴

1.消化器型リンパ腫

腸や胃などの消化管にできるタイプで、もっとも多くみられます。
体重減少、下痢、嘔吐、食欲不振 などの症状が出ることが多く、腸の壁が厚くなることで診断につながります。

  • 低悪性度(小細胞型):進行がゆっくりで、内服薬を中心とした治療で長期間コントロールできる場合があります。
  • 高悪性度(大細胞型など):進行が速く、短期間で体調を崩すことがあります。

2.縦隔型リンパ腫

胸の奥(縦隔)にあるリンパ節や胸腺にできるタイプです。呼吸が苦しい、元気がない、食欲が落ちた などの症状が見られ、胸に水(胸水)がたまることがあります。
若い猫や、猫白血病ウイルス(FeLV) に感染している猫で見られることがあります。

3.鼻腔内リンパ腫

鼻の中や喉の奥にできるタイプです。くしゃみ、鼻づまり、鼻血、顔の変形などが見られ、局所にとどまることもあれば、ほかの臓器へ広がることもあります。

放射線治療が有効なことが多く、必要に応じて抗がん剤を併用します。

治療について

リンパ腫は全身的な病気であるため、抗がん剤治療(化学療法) が中心となります。

  • 低悪性度(小細胞性)リンパ腫では、プレドニゾロン(ステロイド)とクロラムブシル(内服抗がん剤)の併用で、長期間安定して過ごせることがあります。
  • 高悪性度リンパ腫では、CHOP療法やCOP療法など、複数の薬剤を組み合わせた治療を行います。
  • 鼻腔内リンパ腫では、放射線治療と抗がん剤治療を組み合わせることで、良好な経過を得られる場合があります。

治療を行うかどうか、どの方法を選ぶかは、猫の体調や生活環境、ご家族の希望をふまえて慎重に判断していきます。

治療を行わない場合について

「治療をしない」ことも選択肢のひとつであり、猫が穏やかに過ごせる時間を作ることを目的にサポートすることが大切です。リンパ腫は進行性の病気であり、治療を行わない場合には、時間の経過とともに症状が強くなっていきます。

食欲や活動性の低下、体重減少、嘔吐や下痢などが見られ、次第に体力が落ちていきます。特に 高悪性度リンパ腫 では進行が速く、数週間から1~2か月で状態が悪化する ことが多いです。
一方で 低悪性度リンパ腫 は比較的ゆるやかに進行することもありますが、自然に治る病気ではありません。

治療を行わない場合でも、ステロイド薬や点滴などの緩和的な治療 によって、症状をやわらげることができます。

抗がん剤の副作用について

抗がん剤治療を始める前に、どのような副作用が出る可能性があるか、いつ出やすいか、出たときにどう対応するか を事前にご説明します。

主な副作用として、

  • 食欲の低下、吐き気、下痢(投与後2~5日ごろ)
  • 白血球の減少による発熱(投与後7日前後)
    などがあります。

現在では 吐き気止めや支持療法(点滴など) を組み合わせることで、多くの場合は早期対応が可能です。それでも体調を崩すことはあり得ますので、食欲が落ちた、熱がある、水も飲めない などの変化があったときは、早めにご相談ください。
また、抗がん剤の中でも ドキソルビシン を使用した場合に限り、ひげが一時的に抜けること があります。これは薬剤特有の影響であり、治療が終了すると自然に生え戻ります。
その他の抗がん剤では、猫で目立った脱毛が起きることはほとんどありません。

見通し(予後)

猫のリンパ腫は、タイプや治療の反応によって経過が大きく異なります。

  • 低悪性度の消化器型リンパ腫:うまくコントロールできれば、2年以上元気に過ごせることもあります。
  • 高悪性度リンパ腫(縦隔型や大細胞型など):進行が速く、数か月の範囲で経過することが多いです。
  • 鼻腔内リンパ腫:放射線や抗がん剤治療で、1年前後のコントロールが得られることがあります。

予後は一律ではなく、診断時の状態や治療への反応によって大きく変わります。

最期の経過について

リンパ腫の猫ちゃんは、最期の時期が近づくと、少しずつ食欲や動きが落ち着き、眠っている時間が増えていきます。多くの場合、数日のあいだに体がゆっくりと弱っていくような経過をたどります。

病気の進行により、血液の流れが乱れたり(血栓ができやすくなったり)、体の中で炎症が起きやすくなることがあります。これにより、息づかいが浅くなったり、出血が止まりにくくなることもあります。

ただし、長く苦しむケースは多くなく、急に調子を崩してからは、数日から1週間ほどの間に静かに眠るように旅立つ猫が多いようです。岡部獣医科病院では、最期の時間が少しでも安らかなものになるよう、痛みや不安をできるだけ取り除くサポートを行っています。

最後に

リンパ腫と診断されると、とても不安になると思います。しかし、現在は 副作用を予防しながら続けられる治療 が増えており、猫ちゃんの負担を抑えつつ、症状をやわらげることを目的とした治療 も可能になっています。岡部獣医科病院では、治療を行うかどうか迷ったときも、情報を整理して考えるお手伝いができます。猫ちゃんが穏やかに過ごせる時間を少しでも延ばせるように、ご家族と一緒に最適な方法を検討していきましょう。